言葉にならない想いの代わり










 綾部がわたしに笑いかけるようになったのはいつからだったろう。


 たとえば同じクラスだからとか、相部屋だとか、席が隣だとか。
 そんな小さな偶然が重なって、いつの間にか共にいることが多くなったのだと思う。
 いつも隣で綾部が笑っていていて、ふとした瞬間に、それが自分にもうつっていることを自覚する。


 繋いだ手から、暖かさがゆっくりと伝わる。
 ゆっくり。ゆっくり。ゆっくりと。
 きっと、そうやって少しづつ、少しづつ、育ってきたのだ。

(心が)


 時間が流れて、想いを重ねて。
 たくさんの昨日が折り重なって出来た、今日という日。


(いとしい、と想うこと)


 それはきっと何より儚くて、だからこそ、何より尊い。




 何をせずとも、時は流れゆく。
 春が来る。夏が過ぎ、秋が終わり、冬が再びやって来る。
 そうして、季節は巡り、夜を越えて、朝を迎えて。

(お前と)

 朝の、登りかけの太陽を。
 昼の、どこまでも高い空を。
 夜の、淡く光り輝く月を。

(手を繋いで、)

 ふたりで見ていけたら。
 こうして、ふたり、過ごしていけたなら。


 そこまで考えたところで、滝夜叉丸は、いつも思うのだ。
 きっと綾部が思っている以上に、自分は彼のことを好いていると。
 けれど、それを彼に伝えるには、自分の根性が少しばかりひね曲がりすぎていることも。


















 滝夜叉丸の口角が少しだけ上がったのを見て、綾部が首を傾げる。

「何か楽しいことでもあったの、滝」
「…いいや?」
「嘘。顔が笑ってるもの」
「理由がわからない、か?」

 素直に頷いた綾部に対して、滝夜叉丸はくすりと笑った。

「ならいい。わからないままで」
「ずるいなぁ。教えてくれたっていいじゃない」
「お前がいつもしていることだろうが」


 今回はわたしの番だな。

 そう言えば、やっぱりずるいと綾部がむくれた。
 それを滝夜叉丸は笑い飛ばして、思う。

 ひねくれた自分の本心を伝えるのはいつになるのか。

 もしかしたら、卒業にも間に合わないかもしれない、と。







 そう心の中でもう一度笑って、繋いだ手に少しだけ力をこめた。













- - - - - - - - - - -
言葉にならない想いの代わりに。

いまいち素直になれない滝サイドの話。
結局、両思いなんだけど、片思いと大差ないふたりの関係。








+++ プラウザバックでお戻りください +++


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送