「……や、仙蔵」
「何だ」
「…顔、近ぇって」










絶対的存在感










 そう、近い。
 昨晩情事にふけったまま寝てしまったから、同じ布団で寝ているのは分かる。
 それは分かるのだが。
 互いの息が顔にかかるほど接近されて、殆ど口内にまで入ってくるというこの状況は、何か間違っていないか。可笑しくはないか。

……やっぱり、近ぇだろ。

 もう一度文次郎が言うと、ああ、と仙蔵は笑った。





 本当に。

 嫌になるほど顔だけは極上なのだ。














「近づけてるからに決まっているだろうが」












 この立花仙蔵という男は。







 人を馬鹿にするように口角をあげた唇が、ゆっくりと文次郎の唇に重なった。
 すこしぼんやりとしていた文次郎は、あっという間に仙蔵に組み敷かれてしまって。


「…朝なんだけどな」
「嫌じゃないだろう?」


 そう言われてしまえば、それを跳ね除ける術なんて文次郎はもっていなくて。
 諦めたように「まぁな」と笑ってみせるのが、精一杯だった。
 のしかかってくる重さを受け止め、肩越しに天井を見る。

















――――…敵わない、と思った。













- - - - - - - - - - -
そうさ、お前がわたしに敵う筈ないだろう。

浅はかなやつめ、と無敵な笑顔で仙蔵は言い放つのではないかと。








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