「それってフリ?まさか地じゃないよな」
「一体何の話かな」










水溜りに映った景色










 放課後の教室で二人っきり、同じ顔がふたつ。
 担任に言いつけられて、授業の後片付けをやらされているところだった。

「お前の、誰にでも向ける笑顔とか、人の良い先輩ぶってるのとか、何かにつけ迷ってみせるのとか、全部」

 そうだなぁ、と一瞬だけ考える様子を見せて、雷蔵が答える。

「きみの好きなように取ってくれて構わないよ」
「へぇ?反論しないんだ」
「僕が今何言っても嘘っぽく聞こえちゃうだろうし。大体、きみ、信じる気なんて端からないじゃない」

 そう返されたことが意外だったのか、三郎は楽しそうに笑った。










 外は雨。
 できることなら、さっさと長屋に戻って休みたい。
 だから、ある程度の会話を交わしながらも、手は休めない。
 しとしと。しとしと。
 刺すように降り注ぐ雨はやむことなく、屋根を打つ音が教室に響く。
 淡々と作業を進めていく中、雷蔵が思い出したように「そういえば、」と口を開いた。

「きみ、なんで僕の顔でいるときのが多いの?」
「お。それ、お前の口からはじめて聞いた」
「まぁ、今はじめて言ったからねぇ」
「何で?」

 軽く首を傾げた三郎に、雷蔵は軽く肩を竦めてみせた。

「……きみね、今質問してたの僕なんだけど」
「あぁ、わりぃ」
「…で?」
「お前の顔でいる理由、だっけか」

 ま、大した理由なんかないけど。
 そう言うと、三郎は意地の悪い笑みを浮かべて、窓枠に肘をついた。
 開けた窓から入り込んだ雫が、三郎の腕を少しだけ濡らす。



「偽善者の仮面を被ってみるのも、また一興ってな?」



 にやり、と釣り上がった口角のままに、意地の悪い眼差し。
 それを平然と受け止めながら、「そう」と雷蔵は笑った。




 放課後の教室。
 同じ顔がふたつ。
 相変わらず響き続ける雨の音。






―――― 黒い雲は、未だその上から離れる気配はなく。












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お互いがお互いを大嫌いなので、間違っても名前で呼んだりしません。
雷蔵≒伊作、三郎≒仙蔵の図式が成り立ってる。








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