「しあわせですか」











今、となりに君がいる。











「うん。すっごくしあわせ」

伊作の唐突な問いに、にこにこと笑いながら、団子を頬張る小松田が答えた。

伊作と小松田は二人になる機会が多い。
ひとりでは何をやらかすか分からない事務員を見かねた面倒見のいい保健委員長が手伝うという図式が成り立ってしまっていた。
もうその光景に、疑問を抱く人はいない。

小松田は太陽のようだと伊作は思う。それは照らしつけるような激しいものではなく、一緒にいるだけでぽかぽかするような、やさしい光をまとう星。そばにいれるだけで、心からあたたかくなれるような光。

そうですか。なら良かった。と伊作が笑うと、小松田は首をかしげた。

「伊作君は?」
「え、僕ですか?」

急に話をふられて、少し驚いた。
勤めて冷静に、いつもの通りに振舞おうと努力した。

「………僕も、うれしい、ですよ」



(あなたがしあわせなら、)

それだけを、やっと呟く。
あとは思うだけで何も言えない。何も言わない。何も言えるはずがない。
伊作の言葉の表面だけ捉えて、何も知らずに小松田が笑う。
少し言葉の受け答えとしてはおかしいのだけれど、年若いこの事務員はこれくらいおかしさなど気にしないから。
このお団子おいしいものねぇ。買ってきてくれてありがとう。とにこにこ笑う。
その裏表の無い笑顔に、胸が痛くなった。

こんな僕を馬鹿だと哂うだろうか。
自分の気持ちを伝えることさえ出来ない臆病者、返事を聞くことを恐れるばかりの小心者と、人は哂うだろうか。

「……小松田さんに、想われる方は、しあわせですね」
「え、えぇぇ…!?」

途端に真っ赤になってしまった小松田に、伊作は少し笑ってみせた。
うまく、笑えたどうかは分からなかったけれど。




彼の視線の先にいるのは自分ではなくて。

でも、こんな風に微笑む小松田のそばにいることができる。
それが一層彼を愛しいと想う心を溢れさせる。

けれど言えない。言わない。何も。言えるはずがない。



それでも僕は彼が好きだから。
























これが臆病な僕が彼に近づける精一杯の距離。












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いつかの絵日記で語った伊コマ。
これが私の書ける精一杯の、ふたりの距離。

2005/6/11のss日記より再録








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