(愛しいと思うことは切なくて、)












真夜中の兆し













 望まれれば、男とだって伽はする。
 それは別に嫌いじゃない。
 けれど、決して。



 俺には決して野郎と抱き合って寝る趣味なんかなかったはずだ。





「……おい、長次、手ぇどけろ」

 否、正確には抱きしめられているのだが。
 深夜目が覚めたら鼻先に長次の顔があって、文次郎は本当に驚いた。
 当然の如く超至近距離である。

「………長次…?」

 返答が、ない。
 文次郎は訝しむように眉を寄せた。
 長次の呼吸音が微かに聞こえる。目は閉じていた。

 それはつまり、長次は寝ているということで。

 珍しいこともあるものだと、思わず関心の溜息がでた。




















(…そういや)

 ふと、思う。

(こいつの寝顔なんか見たことなかったな)


 いつも文次郎の方が先に気をやってしまうし、朝も、起きれば既に長次は起きていたから。
 はじめて見るのだ。眠っている長次など。

(…気配で起きないなんて、忍者失格だろうが)

 そう思いながらも、あまりの珍しさにまじまじと凝視してしまう。
 見慣れた顔のはずなのに、目を閉じているだけで随分とその印象が変わるもの。
 すると。

 すう、と突然息を深く吸って。

 長次の口が少しだけ、開いた。













「…………文次、郎……」













「………っ…な……!?」

 息が止まるかと思った。
 いきなり名前を呼ばれるなんて、吃驚するに決まっている。
 一気に上昇した体温とやけにうるさく響きはじめた鼓動に、自分自身が一番驚いてしまって、少し身じろぎした瞬間に、今までより強く抱きしめられてしまった。

「っ…長次…!」

 掠れた声が出た。
 長次は本格的に眠っているらしく、呼びかけても無駄だった。

 けれど、文次郎を抱く腕の力は緩まない。

 体格とか腕力とか、その他もろもろの差を瞬時に判断して、早々に抵抗を諦めた文次郎は、本日何度目かもわからない溜息を吐く。


「……お前、どんな夢見てんだよ……?」


 文次郎の呟いた声は届かない。
 眠る長次は応えない。

 それでも、別に構わなかった。


 長次の首筋に、そっと自分の額を押し付ける。












 彼の息がかかる部分がくすぐったくて、なぜか腹のそこがどきどきした。

























「…全部お前のせいだ、バカタレ」







































(愛しいと思うことは切なくて、それでもどこか心地よいものでしょう。)


















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「愛しいと思うことは切なくて、それでもどこか心地よいものでしょう。」

URD様からお借りしました、長文お題です。

2005/6/10のss日記より再録








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