初めて出会ったときはいつであったか。

 駆け回るエアレンディルを見て思う。子供の成長とは存外早いのだと驚いた。
 あのころは自分の膝ほどの高さしかなかったのに、今ではもう腰ほどまで背が伸びた。
 己もそうだったのだろうか。あの深い森の中で。
――――…いや。

(考えるだけ、詮無い)











優しいヒカリ











「マイグリン!」

 何時の間にか、駆け回っていたはずのエアレンディルが目の前にいた。
 己で摘んだのだろう。彼は腕にたくさんの花を抱えていた。
 マイグリンの目を覗き込む、そのまっすぐな視線にすいこまれそうになる。

「…はい」
「今ぼぅっとしてたね。考えごと?」
「殿下にお聞かせできるようなことでは…ありませんので」
「そう?ならいいんだけれど」

 そういってエアレンディルは年相応に微笑んだ。
 いつもマイグリンは、うまく笑って返すことが出来ないのに。  それでもエアレンディルは必ず笑いかけるのだ。

「あのね、わたしね。マイグリンが大好きだよ!」

「……?」

 返答につまる。
 この子供の突拍子も無い発言はいつものことだが、それにしても今回はいきなりすぎる。
 マイグリンは特に何も言わずに、彼の次の言葉を待った。

「なのに、わたしがマイグリンと遊びたいって言ったら、母上に怒られたんだ。
 遊ぶ暇があるならお勉強しなさいって」
「…………それ、は、」

「……母上は優しいけど、時々凄く恐い」

 そう言って俯いてしまったエアレンディルに、マイグリンはますますどう声をかけていいかわからなくなった。
 彼の母親が憤慨した原因は十中八苦わたしの所為だ。
 けれどそれは一瞬で、エアレンディルはすぐに顔を上げて笑顔になり、いつもの通りの明るい声で話しはじめた。

「ねぇ、マイグリン。きみには何か恐いものはある?」
「恐いもの……ですか」
「やっぱりないかな。きみは大人だから」
「……いえ、」

 マイグリンはゆっくりと頭を振った。

「いいえ、殿下。有り余るほどにございます」
「え、ほんとうに?それはなに?なに?教えて?」

 途端に目を輝かせて、興味津々といったエアレンディルの様子に、マイグリンは苦笑した。


(恐ろしい、もの)

 父の手ずから鍛えた、槍。
 その先に塗ってあった、毒。
 自分を捨てた子を躊躇なく殺そうとした、父。
 子を守るために迷いなく自分の身を挺した、母。
 罪人を突き落とす、深い崖、

 己を侵食していく、闇、


 己を照らす、光――――…。



「…申し訳ございません、殿下。
 多すぎて、申し上げきれないのです。…わたしは臆病者ですから、恐ろしいものだらけで」

 きょとんとした顔で、エアレンディルがマイグリンを見つめた。
 恐らく彼の中では、大人にも恐いものがあるのかという新鮮な驚きでいっぱいだったに違いない。

…そっかぁ。

 小さい声で呟いてから、まっすぐにマイグリンを見て微笑んだ。


「じゃあ、マイグリン。わたしがきみを守ってあげるよ!」


 この何気なく言われた言葉。
 この幼さからくる無邪気な言葉は。
 何て傲慢で。何てひとりよがりで。何て残酷で。

 何てやさしいのだろう、と。


「……身に余るお言葉…勿体のうございます、殿下」
「ふふふ」

 摘んだ花を抱きしめたまま嬉しそうに、それこそ花が綻ぶようにエアレンディルは笑った。

「わたしは、マイグリンも母上も父上もお祖父さまも、みんな大好きなんだもの!」

あとはきみがわたしを名前で呼んでくれれば完璧なのになぁ!

 そう言って一層強く花を抱きしめたエアレンディルは本当に美しい。
 マイグリンは目を細めた。













(わたしは)


 本当のわたしは。
 そのような言葉をかけるにも値しない、あまりにも卑小な男で。


 真実を知っても、彼はわたしにそう言ってくれるのだろうか。



(そうあってほしいというほんの少しの期待と)

(ほんとうにそうなってしまったときの罪悪感)













 彼の淡く優しい光が、わたしの闇を深くする。






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2005/6/6のss日記より再録

や っ ち ゃ っ た … !

やらかしてしまった感満載なエアマイでした。
このほのぼののようで、ちょいシリアスな雰囲気がたまらないらしいです。
そしてエアレンディルは、父母祖父より、極端に口数か少なくて
たまに笑うと可愛い叔父が大好きなのです。














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