友行路











「だってエルフはずっと生きていられるのに」
 頬杖を付きながらぽつりと、能天気エルフが呟いた。
「一体全体どうして寿命というものが存在するのだろう」
「『最初の人』にも理解できない事が、どうしてわたしにわかるんだね」
 隣りに座り込んだレゴラスの話しかけたのか独り言かどちらともつかない言葉にギムリは到底返事と呼べない言葉を返す。それが気にくわないのかレゴラスはうーん、と首を傾げた。
「だからね、わたしが問題としているのは、今旦那が200歳くらいだということなんだよ」
 ドワーフの平均寿命は約250歳だという。
 証拠に約200歳のギムリの豊かな髪もぼちぼち色が淡くなり始めていて。
「…困るなぁ」
「だから何で困るんだね」
 レゴラスの言葉が意味不明なのはいつものことだけれど、今回はいつもの倍くらい意味がわからなくて、ギムリの眉は自然と顰められる。

「わたしはきみを愛しているからさ」

 能天気エルフの言葉はまだ続く。
「きみが死んだらわたしはどうなってしまうんだろうなぁって」
 心の其処に生まれた、小さな恐れ。
 たった一滴の不安は水面に落ちて波紋を起こし、広くどこまでも広がってしまって。
 水面を穏やかにさせることなんてもう不可能だとしか思えない。
 自分は何一つ変わらないのに、流れゆく時間が大切な友と別れをもたらしてしまう。
 …くしゃり、と。
 突然エルフの黄金色の髪が太い指に絡まり無造作に掻き撫でられた。
 隣りを見るとギムリが一生懸命手を伸ばしていて。
 きょとんとしたエルフに向かってドワーフがふん、と鼻をならす。
「そんなこと言わなくったってわかっとる」
 乱れた水面に映る、真っ黒い目。
 それでもいつか不安に殺されるのだろうけど。
 そう遠くない未来に終わりが来るだろうけど。

「わたしだってあんたが好きなんだから」

 ギムリは自分で言ったことに照れてしまったのか、ぷいとあちらを向いてしまい、レゴラスは星の輝きを閉じ込めた目を細めて笑う。



「長生きしてよね」
 時間は自分を置いてけぼりにする。
「…可能なだけ努めよう」
 きみは何処まで流されていくのだろうと。












 どうしようもなく西の国へ憧れても。
 どうしようもなく愛しいきみが此処にいるなら。
 それはわたしをこの国に結びつけるから。













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